「考えのお散歩」が誤解を招く
相手を深く理解できていないということは、それだけ相手の話を聞けていないということです。みなさんはいかがでしょうか?
誰かと一対一で話をしているときに、相手の話を「本当にフラットな視点で100%聞ける」という自信はありますか?
おそらく、ほとんどの方は、相手の話を聞きつつ同時に「自分のこと」を考えていませんか?
(なんでこんなこと言うんだよまったく…)
(そういえば、前もこの話をしていなかったっけ…)
(それって私に対する当てつけかな…)
相手の話を聞いているつもりで、実は思考が様々なところに飛んでしまっている。そんな状態を「考えのお散歩」と呼んでいます。
たとえば、会議で上司が話しているときに「C社」という単語を聞いたAさんは「そういえば、C社からの見積もりの返事がまだだったよな…。そろそろ発注書をもらわないと納期間に合わないのに、いつも〆切直前に連絡してくるんだよな…はあ…。」と考えがほかの方向へ行ってしまいます。
ふと我に返って上司の話に集中していても、「来月の売上目標は…」という話に差し掛かったあたりで、「この目標って、勝手に上層部が決めた目標だよな?また残業しろよっていうのかよ。本当にうちの会社は人使いが荒いよなぁ。残業増えるの嫌だし、転職でもしようかな。転職と言えば、同期の高木が辞めるって噂を聞いたけど、あいつはどこに行くつもりなんだろう…」などと違うことを次から次へと考えてしまっています。
そうしているうちに話が終わり、「Aさんはどう思う?」と意見を求められて言葉に詰まってしまった、というのはよくあることです。
認知科学では「考えのお散歩」のことを「マインドワンダリング」と呼び、「日常的な認識の50%は、自然発生的な考え、マインドワンダリングにより占められている」と言われています。
自分が、相手に対して抱いているイメージ通りの発言があれば、その部分だけ切り取ってイメージと違う部分は捨ててしまいます。自分が聞きたい部分だけ都合よく解釈してしまうのです。テレビの街頭インタビューで、番組の構成通りの「答え」が切り取られて放送されていますが、それと同じことです。
相手のためによかれと思って伝えたりしたことが、正反対に受け取られてしまい、思わぬトラブルになるのは、そうした思考のクセが原因でもあるのです。
みなさんも人と話をしているとき、「あ、考えのお散歩に行って聞いてなかった」と気づく瞬間があるのかどうか注意してみてください。
ここで、さらに具体的な日常の例で解説していきたいと思います。
ある家族の会話
とある夫婦と、息子のひろかず君(6歳)の3人家族での会話です。夫は夜遅くまで仕事をして帰宅直後の夫婦の会話から始まります。
夫「ただいまー。」
妻「おかえりなさい。今日は遅かったわね。先に夕飯済ませちゃってるから。」
夫「ああ、すまんね。」
妻「てか聞いてよ。今日ひろかず帰ってきたら足にけがして帰ってきたのよ!服も汚れてるしまた友だちとケンカして…」
夫「え、そうなの?(また始まったよマシンガントーク。こっちは疲れてるのに次から次へとよく言葉が出てくるな。毎日疲れたとか言っておきながらすごい体力だよ。あーあ、この話いつ終わるのかなあ…)」
妻「…それで隣の奥さんったらまた回覧板私に渡すの忘れて…」
夫「へー?(あれ?いつの間に話題変わってたんだ?ひろかずの話はどうしたんだ?あいつまた友だちとケンカして…困ったやつだな。土曜日は仕事ないし、あいつと一緒に公園にでも遊びに行くか。)」
妻「ってわけでね、お願いがあるの。ケーキを明日の帰りに買ってきてくれないかしら。飾り付けはこっちで準備しとくから。明日はノー残業デーでしょ?」
夫「おー、ケーキな。わかった。(やれやれ、ようやく話し終わったよ。今日も疲れた。ケーキ買うの忘れないようにしないと、怒られるぞ…最近疲れてそうだし、奥さんの好きなチョコケーキでも買ってくるか。)」
そして翌日、夫はチョコケーキを買って帰宅します。
妻「…なにこれ?」
夫「え、だってケーキ食べたかったんだろ?」
妻「なんでチョコケーキなのよ。」
夫「え?だってお前好きだし…」
妻「今日何の日かわかってる?」
夫(顔面蒼白)
妻「ひろかずの誕生日だからケーキ買ってきてほしかったの。ひろかず、チョコ嫌いって言ったよね?てか知らなかったの?あの子、チョコ嫌いなんだけど。」
泣き叫ぶ息子、噴火状態の妻、金縛り状態の夫。ひろかず君の誕生日は、悲惨な日になってしまったのでした…。
さて、以上が夫婦の会話にあてはめた例です。
ここでは、夫側がどのように奥様の話を聞いていたかというと、以下の通りです。
- 疲れてしまっている自分の状態に意識が向かっており、はやく妻の話が終わってほしいと考えている。
- ①の状態から話題が転換していることに気づかず、話についていけてない。
- 「ケーキ」という単語から妻が食べたいのだと思い込み、妻の好きなチョコケーキを買ってしまった。
- 結果、悲惨な誕生日パーティーとなってしまった。
まさに、夫は「考えのお散歩」状態で妻の話を断片的にしか聞けていません。都合よく、自分の解釈で言葉を理解してその背景を知ろうとはせず、表面的な部分判断を下してしまっています。結果、まったくの勘違いをした行動をとってしまい、最悪の結末を迎えてしまいました。
では、この夫が潜在意識を自由にコントロールでき、自分の経験や認識≠事実ではないという考えのもと、「考えのお散歩」をしつつも自分で気づくことができて会話の中で修正することができるようになった場合、上記の例はどんな展開になるでしょうか?
それは、以下のような展開になります。
- 妻が話を始める前に自分の状態を伝え、聞く態勢を整えてから会話をスタートしてもらえるようにする。
- ①により、まったく話を聞けない状態を防ぐ。
- 「ケーキ」という一つの単語から連想するイメージにとらわれず、相手が何をしてほしいのか?正確な意図を理解するまで話を続ける。
- 結果、悲惨な誕生日になるリスクを回避する
前者の夫の状態では、今後家庭内で良い関係性を築けるのかというとほぼ絶望的でしょう。後者の夫の状態であれば、少なくとも悲惨な誕生日になることは避けられそうです。ひでかず君の好みのケーキを購入して、楽しい誕生日を迎えられたはずです。
また、今後は家庭内で過ごす時間が圧倒的に増えます。外出が思うようにできない以上は、家庭内のコミュニケーションのあり方に必然的にスポットが当たります。その際に「考えのお散歩」状態でコミュニケーションを取っていては、良好な関係性を築いていくことは難しいでしょう。
さて、改めて一番最初の問いに戻ります。
相手のことを深く理解できていないというのは、それだけ相手の話を聞けていないということです。みなさんはどうでしょうか?
誰かと一対一で話をしているときに、相手の話を「本当にフラットな視点で100%聞けている」という自信はありますか?相手の話を聞いているつもりで、じつは思考がいろいろなところに飛んでしまっている。そんな「考えのお散歩」状態で相手の話を聞いていませんか?
「考えのお散歩」状態によって悲惨な誕生日を迎えてしまった夫婦のような危機的な関係性を築きますか?
それとも、潜在意識を自由にコントロールでき、自分の経験や認識≠事実ではないという考えのもと、「考えのお散歩」をしつつも自分で修正が可能で、発展的で幸せな人間関係を築いていきたいでしょうか?
ぜひ、未来のある発展的で幸せな関係性を築くことができることを目指していただければ幸いです。