都合のいい解釈は、「脳の手抜き」が原因だった

人間関係をこじらせる「思い込み」の力

 脳はとても高度なメカニズムを持っていますが、優秀であるがゆえにコミュニケーションの場面では「不都合」なことも引き起こしてしまいます。同じ状況で同じものを見ていても、人によって「見え方」「感じ方」がまったく違ってしまうということが起こり得ます。

 そうした特性の一つに「認知バイアス」といわれるものがあります。

 メディアで「美味しい」と評判のパンケーキA店があり、早速食べに行ったところ、その近くに別のパンケーキB店がオープンしていて大変な行列ができています。

 お目当てだったA店は行列もなく、店員さんはちょっと暇そうな様子です。すると、脳の中ではこんなイメージが沸き起こってきます。

 (おや?もしかしたら元から行きたかったお店は、それほど美味しくないのかもしれないなあ…。そうか!きっと新しくできたお店のほうが美味しいから、あれだけのすごい行列ができているんだ)

 そうして、元々行くはずだったA店をやめて、新しくできたB店の行列に2時間並んで、ようやくパンケーキを食べるのですが、肝心の味はどうやらイマイチ。けれども、そこで自分の取った選択を誤りだったとは脳は認めたくないので、こんなふうに考えます。

 (いや、これだけ行列ができているんだから、B店のほうがきっと美味しいはず。そうに決まっている。元々行きたかったA店は、ここよりも味が落ちているんだ。)

 これは「バンドワゴン効果」と呼ばれ、実際の味の違いを確認したわけでもないのに、自分の選択の正しさを「行列ができているんだから美味しいはず」という思い込みで補強している現象です。

 それぞれの思い込みによって、目の前の事実の一部分だけを切り取り、自分に都合のいいように解釈して、「やっぱり思った通りだった!」と自分を納得させる。

 これは、言ってしまえば「脳の手抜き」です。

 パンケーキの味を自分に都合よく解釈するぐらいであれば実害は少ないかもしれませんが、これを人間関係でやってしまうと大変です。

 相手の一部分だけを切り取り、過去とつなげて「やっぱりあの人は性格が悪い」「やっぱりあいつが私を陥れたんだ」と思い込むと、必ずどこかで人間関係がこじれてきてしまいます。

 良好な人間関係を築きたければ、こういった脳のクセをきちんと知ることで、自分自身の脳に騙されないようになることが大事です。

苦手な上司への決めつけ

 さて、ここからはさらに具体例で解説を行います。

 部下Aさんは、上司であるB課長に苦手意識があるようです。過去B課長から引き継いだは顧客とはなにかしら問題を抱えており、Aさんは「嫌な仕事を押し付けたのでは?」「自分だけ楽をしようとしているのでは?」とB課長には不信感を抱いております。B課長は優秀なAさんに元気がないことを憂慮しており、以前からAさんがやりたがっていた仕事を任せることを決めます。そしてある日、AさんはB課長に呼ばれました。

Aさん「(また仕事押し付けられるのかなあ)B課長、なんでしょう。」

B課長「おう、忙しいところ悪いな。実はAさんに任せたい仕事があってな…。」

Aさん「は、はい(やっぱりそうだ。また俺に押し付ける気だ)。」

B課長「実は新規市場開拓が喫緊の課題でな。そこでAさんに食品市場の調査をしてほしいんだが…。以前からやりたいって言ってたしな。どうかな?」

Aさん「は、はあ(別にいいけど今の既存顧客の仕事どうすんだよ。仕事量は増やして残業は減らせとか言うんだろうなどうせ。新規市場の話も、どうせ自分でやりたくないから押し付けようとしているんだ)。」

B課長「以前からやりたいって言ってたからなあ。ここは若いやつに任せたほうが先入観なく、調査できるだろうって部長もおっしゃってな。期待しているぞ。」

Aさん「はあ。分かりました。」

 さて、その半年後にAさんは見事新規市場の調査をまとめ上げ、いよいよ新規開発部隊の立ち上げを行うというタイミングで、B課長はAさんから衝撃的な申し出を受けました。

Aさん「課長、ちょっとよろしいですか?」

B課長「ん、どうした?」

Aさん「実は、退職のご相談をしたくて。次の会社も決めてるんですよ。」

B課長「え…。ちょっと待てちょっと待て。これからいよいよ新規市場の部隊を立ち上げるんだぞ。お前がいなくてどうするんだよ。」

Aさん「その件ならCさんにすべて引き継いでますんで問題ありません。今回の件で、やっぱりマーケティングの仕事やりたいと思いまして…。」

B課長「そ、そうか…。そこまで決めてしまっているのか…。とりあえず部長にも相談するから、少し時間をくれ(待て待て、なんでだ?彼の望む仕事を与えたつもりなのに…。)」

Aさん「わかりました(あー、せいせいした。もうB課長の顔見なくて済むと思うと心が晴れやかだわ。明日は有給だし、ゆっくりしよーと。面倒なお客さんともおさらばだぜ)。」

 Aさん、退職することになってしまいました。さて、いかがでしょう。みなさんはどう感じたでしょう?まとめますと

① Aさんは、過去の引継ぎ業務などからB課長に不信感を抱いている。
② B課長はAさんを評価しており、チャンスを与えて頑張ってもらおうとしている。
③ Aさんは、②を「また仕事を押し付けられた」と捉え、B課長にさらに不信感を抱く。
④ 結果、仕事がひと段落した時点でAさんは退職をしてしまった。

以上のような状況でした。Aさんが新規市場を任されたことを客観的に見ると、本人の希望にも沿っていて大チャンスのように思えます。しかしAさんは、B課長の表面的な部分と、過去の出来事を切り取って「やっぱり仕事を押し付ける気だ!」と捉えて不信感をさらに増幅させてしまい、結局は修復不可能になって退職という決断をすることになりました。

 このままでは、Aさんには以下のデメリットやリスクが生じてしまいます。

① 新規市場の開拓という貴重な経験をすることができない。
② Aさんは脳のクセに捉われたままなので、新しい職場でも繰り返し人間関係に悩むリスクがある。
③ B課長はAさんを認めていたので、社内でもっと出世する可能性があった。その機会を自ら放棄してしまった。

以上の3点です。さらに、新しい職場でも希望の部署や仕事ができる保証はありません。社会情勢や会社を取り巻く環境が変化すれば、おのずと影響を受けて違う仕事をやらされるリスクも十分にあります。

 環境を変えれば問題が解決すると思われがちですが、問題というものは周囲が抱えているのではなく、自分自身が抱えているので、環境が変わったところで自分が変わらないと解決しません。問題の根本、すなわち潜在意識の扱い方やマインドテリトリーセオリー、脳のクセなどを理解し、マスターしていかない限り、環境を変えたところで解決することはないのです。

改めまして、冒頭に戻ります。

脳はとても高度なメカニズムを持っていますが、優秀であるがゆえにコミュニケーションの場面では「不都合」なことも引き起こします。同じ状況で同じものを見ていても、人によって「見え方」「感じ方」がまったく違ってしまうことがあるのです。

 相手の一部分だけを切り取り、過去とつなげて「やっぱりあの人は性格が悪い」「やっぱりあいつが私を陥れたんだ」と思い込むと、必ずどこかで人間関係がこじれてきます。

 あなたはこれまで同様、脳に騙され続けながら生きていきますか?

 それとも、脳のクセや潜在意識を理解してコントロールし、良好な人間関係を築いて将来を豊かな未来にする、という決断をしますか?

新着記事をお知らせします
>組織デザインを相談する

組織デザインを相談する

ライブドアのメディア事業をゼロから立ち上げた経験(6名→600名)のある石山喜章が、御社の組織づくりに関する課題を解決します。成長企業に必要な「理念・バリューの再構築」、「評価制度の設計」、「幹部人材の育成」など、業績の上がる組織を創りたい経営者の方はご相談ください。

CTR IMG