タクシー運転手の不思議な質問

「怖い」と感じてしまう理由とは?

 ある日の午後、新橋からタクシー乗ったときのことです。

 私は運転手さんから突然、「お昼はどこで食べましたか?」と質問されました。

 いきなりのことに「?」と思いながらも答えると、更に「お昼代はいくらぐらいでしたか?」と聞かれたのです。きっと、みなさんも自分がタクシーに乗って運転手さんから突然「お昼に何を食べていくら使ったか」と聞かれたら「なんで?」と思いますよね。いきなり、そんなプライベートなところまで踏み込んだ質問をされると、不快に感じたり、「怖い」と思われたりするかもしれません。

 私も不思議に思ったので「なんで運転手さん、そんな質問をするんですか?」と尋ねたところ、なんとその運転手さんは1年後に自分のお店を出す予定で、リサーチを兼ねて、毎日、色んなお客さんの話を聞いていたのです。その瞬間、見える世界が変わりました。そこまで聞けば、ようやく「なるほど」と納得することができます。

 この話からもわかるように、私たちは相手のアイデンティティーがわからないと、同時に相手のことも警戒します。この運転手さんの場合は、なぜそのような質問をしてくるのかがわからず、気持ち悪さだけが残ってしまうのです。

 なぜなら、私たちは「タクシー運転手さんがお客さんの昼食について詳しく知る必要がある」というイメージを持っていないためです。

 しかし、相手のアイデンティティーがわかってくると、質問の真意も理解できます。

 自分のお店を出すのなら、色々なエリアの客層の人が、どこでどんなランチを食べてどれくらいの金額を使っているのかという生活の情報は貴重なデータとなります。私は、そんな発想でタクシーの運転手をしながら、開店の準備を着々と進めるこの人のことが面白いなと思い、応援したくなりました。

 このケースの場合、相手をどう見るかで、自分が受けるイメージと、そこから生まれるコミュニケーションが全く違ってくるのがわかります。

 つまり、相手のアイデンティティーを正しく認識できなければ、そこからイメージのズレが生じ、自分の思い込みのまま相手を拒絶したり、分かったつもりになって偏見で突っ走ってしまい、結果的にいい関係をつくれなくなるということになるのです。

現に、私が運転手さんに質問の意図を尋ねなければ、運転手さんに対するイメージは「不快」「怖い」などと決して良いものではありませんでした。

 しかし、否定的なイメージを一旦脇に置いておいて、きちんと理由を尋ねることで運転手さんに対するイメージは一転し、「応援したい」とまで思えるようになったのです。

アイデンティティーをどう認識するか

 ここからは、さらに具体例で解説していきたいと思います。

 新人セールスマンTさんは、やる気十分な期待の新人ですが、まだ商品知識や業界知識に暗く、電話を取るなどの基本的な仕事も十分にこなせていません。そんな彼の上司、U課長はTさんのやる気は認めているものの、まだ業務の面で信用しきってはいない様子。ある日、TさんとU課長が何やら話し込んでいる様子です。

Tさん「U課長、ぜひX社の案件を私に任せていただけませんか?」

U課長「お前、それどこでかぎつけてきたんだよ…。」

Tさん「ぜひ私に任せてください!お願いします!」

U課長「その嗅覚とやる気は素晴らしいけどな、まだお前には早い!」

Tさん「えー、課長お願いしますよー。」

U課長「だめなもんはだめ!」

S先輩「Tさん、まだ入社したばかりだし、もうちょっと勉強してからにしなよ。」

U課長「そうだ。もう少し待て(Sのおかげて助かったー)。」

Tさん「はい…。分かりました。」

 さて、この会話の状況をまとめると、以下です。

① U課長は、Tさんがまだ入社1年生で、大きい仕事は任せられないと思っている。
② U課長はTさんの申し出に対して、任せられるか疑問に思った。
③ したがって、U課長はTさんの申し出を断った。

U課長は、Tさんの社内での立ち位置を「入社1年目の新入社員」とみなしているため大きな仕事を任せられないと考えています。

 その後、Tさんは以前にも増して業務に取り組み、そのバイタリティと根性で大きく業績に貢献できるようになりました。あの会話から半年が経過したある日、またU課長と話し込んでいるようです。

Tさん「課長、V社からかなり大きな引き合いがきていると伺いました。」

U課長「お前、その情報今度はどこで仕入れたんだよ…。」

Tさん「ぜひ、今度こそお任せいただけませんか?」

U課長「その嗅覚は毎度賞賛に値するけどな…まだダメだ!」

S先輩「そろそろいいんじゃないですか?課長。」

U課長「いや、Tはまだ入社1年経ってないんだぞ。普通は最低でも2年目のやつが…」

S先輩「そうですけど、この半年間凄い成果出したの、課長も知っているでしょう?」

U課長「ま、まあな…。」

S先輩「半年前は、正直不安を覆い隠すために強気に出てるだけで、実際はひよっこレベルだったと思いますけど、今は自信に満ち溢れているし成果も出せると思います。」

Tさん「S先輩…!」

U課長「確かにそうだが…うん…任せてみるか。」

Tさん「ありがとうございます!」

U課長「S、念のためお前がフォローしてくれ。頼むな。」

S先輩「承知しました。」

Tさん「S先輩、ありがとうございます!」

S先輩「気にすんな。それよりV社へのプレゼン、早速作ってくれ。あとで添削するよ。」

Tさん「はい!頑張ります。」

 Tさん、本当にこの半年間頑張ってきました。ですが、ここからがもっと大変です。頑張ってやりきってほしいですね。

 さて、ではこの上記の会話をまとめてみますと

① U課長は、まだTさんを「入社1年目のひよっこ」とみなしている。
② U課長は、Tさんからの申し出をまた断ろうとした。
③ S先輩は、Tさんのこの半年間の頑張りと成果から「入社1年目の新入社員」から大きな案件も任せられる「入社2年目レベル」になったと認識を変えた。
④ ③から、S先輩は大きな案件をTさんに任せても良いと判断し、U課長に進言した。
⑤ ④の結果、U課長も認識を改め、Tさんにチャンスを与えても良いと判断した。
⑥ 結果、Tさんは希望通り大きな案件を任せてもらえるようになった。

以上のようになります。

このように、相手への認識、アイデンティティーをどのように見なすかで、内容としては同じものであっても、反応や結果が変わってきます。今回はS先輩のおかげでU課長が認識を変化させることができましたので円滑なコミュニケーションが取れましたが、U課長が認識を変えなかった場合、どんな展開になっていたでしょうか。

 課長は理解をしてくれない、職場の風通しが悪い、年功序列の組織だ、とTさんは不満を膨らませた挙句、最悪の場合、転職をしてしまうかもしれません。自分のやりたいことができない、と言って。ここまで極端ではないにしろ、みなさんも職場内で心当たりがあるのではないでしょうか?

 そういった、すれ違いを防ぐためにも相手のアイデンティティーを正しく認識してコミュニケーションを取ることが重要です。

 改めて、冒頭に戻ります。

 相手のアイデンティティーを正しく認識できなければ、そこからイメージのズレが生まれ、自分の思い込みのまま相手を拒絶したり、わかったつもりになって偏見で突っ走ってしまい、結果的にいい関係をつくれなくなってしまいます。

 あなたは、これまで通り自分の思い込みのまま相手を認識して関係性を築いていきますか?

 それとも、自分の思い込みやイメージを脇において、相手のアイデンティティーを正しく認識して、良好な関係性を築いていく道を選びますか?

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ライブドアのメディア事業をゼロから立ち上げた経験(6名→600名)のある石山喜章が、御社の組織づくりに関する課題を解決します。成長企業に必要な「理念・バリューの再構築」、「評価制度の設計」、「幹部人材の育成」など、業績の上がる組織を創りたい経営者の方はご相談ください。

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